2014/12/15

特別シンポジウム「第一次世界大戦と現代世界の誕生」

2014年12月12日(金)
午後1時〜5時30分
国際文化会館(東京・六本木)岩崎小彌太記念ホール

特別シンポジウム「第一次世界大戦と現代世界の誕生」
主催:公益財団法人 国際文化会館
   公益財団法人 サントリー文化財団
   公益財団法人 渋沢栄一記念財団
   
新渡戸博士とも関係の深い国際文化会館でおこなわれた、
特別シンポジウムを聴講しました。
2014年は、第一次世界大戦の勃発から百年。
日本から遠いヨーロッパの地で起こった戦争でしたが、
世界全体が大きく揺れ動き、また日本のその後にも大きな影響を
与えました。
1919年、新渡戸博士は、後藤新平伯に誘われ、第一次世界大戦の
後を視察にヨーロッパを訪問しています。
そして、そのまま国際連盟の事務次長に抜擢されることになります。

今回のシンポでは、二人の基調講演に続き、三人の先生による報告、
そして、全員参加のパネルディスカッションと、大変興味深い内容でした。

基調講演1
「第一次世界大戦が今日に与える教訓」
 デイビッド・A・ウェルチ(ウォータルー大学)

基調講演2
「刻印された歴史意識:長い20世紀と第一次世界大戦」
 中西 寛(京都大学)

「第一次世界大戦は日本に何をもたらしたか」
 井上 寿一(学習院大学)

「日本・ドイツと第一次世界大戦におけるアジア太平洋」
 岩間 陽子(政策研究大学院大学)

「第一次世界大戦は不可避だったか 東アジアの将来への教訓」
 細谷 雄一(慶應義塾大学)

総括 五百旗頭 真(熊本県立大学)

それぞれの視点からの第一次世界大戦の分析、そして、今日までの
影響や教訓まで、とても勉強になる内容でした。

上記の中、学習院大学の井上寿一学長のご講演で、
主に、新渡戸博士がジュネーブで活躍した第一次世界大戦後の
国際政治と日本、そして、新渡戸博士が設立に関わった世界で初めての
国際平和組織「国際連盟(現在の国際連合)」についてのお話が
ありました。(井上先生のレジュメから抜粋)

【第一次世界大戦は日本になにをもたらしたのか】

ヨーロッパで起こった「欧州動乱」は日本に波及、日本の体制を変革した。
この戦争の後、日本の軍事費はピーク時から半減し、国際連盟の原加盟国・
常任理事国となり、「平和とデモクラシー」の時代が到来する。

I パリ講和会議
A 講和会議の諸問題
  旧ドイツ権益/国際連盟/人種平等条項
  (日本は「個別利益の確保」「普遍的な価値の受容」の均衡保持に努めた)
B 4人の「国際会議屋」
  石井菊次郎(国際連盟日本代表)/安達峰一郎(常設国際司法裁判所所長) 
  佐藤尚武(国際連盟帝国事務局長)/杉村陽太郎(国際連盟事務次長)
  (筆者注:杉村は、新渡戸の後任)
C 国際協調の精神
  少数民族問題/常設国際司法裁判所/軍縮

1920年代の日本の国際協調外交は、うまく機能していたが、海外で活躍した
「国際会議屋」たちは、国内に政治的な基盤がなかった。

II 政党政治
A 大正デモクラシー
B 東アジアの脱植民地化要求
C 国際労働機関(ILO)と労働者保護の社会政策
  (社会政策の立案をとおして、官僚と政党が結びつきながら台頭)

III 成金経済と大衆消費社会
A 大衆消費社会の光と影
B 反動不況から長期経済停滞へ

IV 新しい国の〈かたち〉
  皇太子訪欧(1921年3月〜9月)
  新しい時代の新しい皇太子像(背広姿、立憲君主)

おわりに
A 国際協調外交の限界
B 二大政党制の問題
C 大衆消費社会

以上。

新渡戸稲造博士がその設立に関わり、事務次長として尽力した、
国際連盟。
新渡戸博士は、在任中に一時帰国して、日本国内で平和主義と
国際連盟の精神の普及のため、数多くの講演をおこなったが、
難しかった。日本では、第一次世界大戦の戦争認識は浅く、
共有認識されなかったことが、後の大きな問題として残った。

共通の認識基盤を持ち損ねた日本

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五百旗頭先生は、「第一次世界大戦後の講和会議のまずさ」を指摘。
敗戦国ドイツに厳しすぎたことが、ヨーロッパの新しい出発を妨げ、
ヒットラー台頭を招いてしまったと解説。

私は、第二次世界大戦後のサンフランシスコ平和会議で、
スリランカのジャヤワルデナ大統領(当時は蔵相)が、
敗戦国日本に対し、寛容を示すスピーチをされたこと、
その後の日本が平和に復興できたことに思いを馳せました。

最後に、五百旗頭先生の「有利な立場の側が自制し、相手に自制を
強いることが、平和につながる」というコメントが印象的でした。

1914年のヨーロッパと2014年現在のアジア。
「相手の状況を考え、追いつめない」など、多くの教訓が
現在に活かせることを実感できたように思います。