2019/09/12

東京女子大学第一期生 斎藤百合

2019年9月12日(木曜日)

先月、東京女子大学の茂里学長様がお話しされた、
東京女子大学(初代学長新渡戸稲造)第一期生の斎藤百合さんについて、
下記の本から、紹介します。

『光に向かって咲け 斎藤百合の生涯』 粟津 キヨ 著 岩波新書342

茂里学長のご講演については、こちら


いまよりさらに困難な状況であったと考えられる当時の障害者が、
特別生とはいえ、第一期生として入学が許可されたことに驚かされます。
学友たちともあたたかい交流があったようです。

・・・ここより、同書から引用(抜粋)・・・

p.53〜54(抜粋)

大正七年の春まだ浅いある朝、武弥(斎藤百合の夫、弱視者)は
新聞に発表された東京女子大学設立の記事を見つけて読んでくれた。
そこには設立の意図として、
「いままでのような家政科でなく、教員養成でもなく、キリスト教精神により
女性を一人一人の人間として伸ばすための高等教育を行う」
という意味のことが書かれていた。百合は感激して、
「これこそ、私の求めていた学校だ。そして、私の住むべき世界だ」
と思った。夢は際限なく大きくふくらんでゆき、百合にはもう、
自分の現実を深く考える余裕はなくなってしまっていた。

・・・百合は、盲女子であり、その上、主婦であり、大正五年八月には
長女久美が生まれていたから幼児をもつ母でもあった。年は、二十八歳
になっていた。経済的にも決して裕福とはいえない。

・・・夫は「やれるだけやってみるんだね」といって、百合の無謀としか
言いようのない女子大学入学への望みに理解を示し励ましてくれた。

・・・入学試験は口頭で行われた。面接の時、学長代理の安井てつ学監は、
いきなり言った。
「ここは、勉学の意気に燃えているお嬢さんたちの集まる所です。
結婚しているめくらの女が大きなお腹にでもなったらどんな勉強が
できるというのですか」
 覚悟はしてきたのだったが、こんな言い方をされようとは思わなかった。

・・・盲女子の置かれている社会的地位がいかに低いか、
それを高めるために、一人でも二人でも高等教育を受けなければ
ならないのです、と百合はしゃべるだけしゃべって帰ってきた。

それから一週間後、東京女子大から「特別生として入学を許可する」
という文面の速達便が届いた。すでにあきらめていた百合は、
その手紙を胸に抱いて、声をあげて泣いた。

・・・元東京女子大学教授平野雪枝は、「・・・新渡戸先生(学長)や
ライシャワー先生(理事)がお決めになったのでしょう」と
言っている。・・・ライシャワー夫妻が聾唖の娘をもっていたこと、
また、若いころ重い眼病にかかって、いったんは失明の宣告まで受けた
新渡戸の、障害者に対する深い理解が、百合の入学を大きく左右した
ことが考えられる。
のちに学長となった安井てつは、面接の時は冷酷ともとれる言葉を向けて
百合の決意を確かめたが、入学後は特に百合に心をとめて指導し、
卒業後も百合の主催する「陽光会」の後援会長になるなど、
援助を惜しまなかった。

p.56(抜粋)

斎藤百合は、大正七年春、東京女子大学予科に入学、人文科を経て、
高等学部三年に編入し、卒業すると、つづいて大学部英文科に
一年半在籍し、十二年の秋に退学している。
(その間に、三人の子どもを出産。長男は生後まもなく死亡)
(十二年九月の関東大震災で夫の勤務先が焼けて一時失業、
 また町の混乱した状況が通学を難しくしてやむなく退学)
(百合が優秀であったこと、学友たちと楽しく交流したエピソードが
 残されている。学友たちは卒業後も百合の活動を支援した)
(視力を補う、素晴らしい勘の持ち主でもあったらしい)

p.102〜(要約)

第一回のヘレン・ケラーの来日時に、さまざまな困難を経て、
講演会を企画、実現した。
講演会では、百合の作詞、宮城道雄の作曲による、
「ヘレン・ケラー女史に捧ぐる歌」を自ら歌った。
(琴の演奏は、宮城道雄)

1946(昭和21)年、夫(武弥)死去 53歳
1947(昭和22)年、百合 死去 55歳

2019/09/10

ニトベ・フレンズセミナー「一人の女」

2019年9月6日(金曜日)

久しぶりの盛岡です。(新渡戸稲造博士 生誕地)
新渡戸基金、藤井 茂 理事長による読書会に
出席させていただきました。

テキストは、『新渡戸稲造全集』(教文館発行)第11巻収載の
「一人の女」。
新渡戸基金様で読みやすい小冊子にしてあります。

・何事にも慌てぬ強い婦人

・男子を感動させた婦人

など、新渡戸博士が実際に会ったり、話を聞いたりしたことのある
婦人たちのさまざまな境遇や出来事が紹介されています。
新渡戸博士本人が、これらの実話から、婦人に対する考え方や
人生観にまで影響したと、その序文で述べています。
少し道を踏み外した女性、同情に値する経験をした女性に、
あたたかい眼差しを向けています。

新渡戸博士は、自宅に多くの相談者を招き入れて話を聞いたり、
世話をしたことが、わかっていますが、こうした名も無い、
縁もなかった人々の話に耳を傾け、多忙の中、多くの時間をさいていらした
ことに、あらためて驚かされます。

このたびの読書会は、さまざまな専門分野の方々がともに集うことで、
新たな見地が開かれる、貴重な場になっていることもわかりました。

ありがとうございました。